実家を相続した一級建築士が空き家について考えてみた。
一級建築士 近藤英夫(有限会社 近藤英夫建築研究所)
1.はじめに
現在、日本には多くの空き家があります。
総務省の調査によれば平成30年には全住宅6,240万件のうち、空き家件数は846万件にのぼります。実に8件に1件は空き家なのです。
https://www.stat.go.jp/data/jyutaku/2018/tokubetsu.html
また平成27年には「空き家等対策特別措置法」が施行されました。これは国や自治体が危険だと判断した建物を強制的に壊すことができる(やりやすくなった)法律です。
もちろん費用は持ち主に請求されます。強制力のある、ある意味恐ろしい法律です。
https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/jutakukentiku_house_tk3_000035.html
空き家は年々増加しています。
神戸市はじめ各自治体でも空き家バンクを設置して空き家の利用、に奮闘していますが、正直利用しづらく実績も伸びていない
ようです。
私も両親の死後、実家(空き家)を相続することになりました。
ここでは建築設計事務所として空き家の活用方法、今後の流れについてお話していきたいと思います。(自身の例も含めて)
総務省統計局平成30年住宅・土地統計調査 特別集計より
国交省 空き家等対策の推進に関する特別措置法関連情報 より
2.資産とみるか負債とみるか
(1)賃貸のケース
状態がよければ戸建て住宅として賃貸が可能です。
借り人とのトラブルが怖ければ最初は管理も業者に任せたほうがいいでしょう。
ある程度の改修費用がかかる場合もあります。その場合、借金してその費用を回収できるかどうかの見極めも大事です。
住宅以外でも民泊、グループホーム、シェアハウスとして貸出す、または経営するという方法も可能性があります。経営については興味とやる気があればお勧めします。
(2)売買のケース
必要ないという事になれば、売買を考えますがなかなか売れない事情もあります
例えば
・長屋(となりの建物と接続している、柱を共有している)である。
・借地に建っている(土地の所有者と借地契約の引き継ぎができるか)
・再建築不可物件の土地である
-再建築不可-建物ができた後に敷地周辺の状況(前面道路や都市計画)、法令や建築基準法が変わり、その土地に新築の建築をすることが難しい土地を指します。違法建築ではありません。-
・建物が古く、老朽化が進んでいる(雨漏り、耐震性能、断熱性能等)
一方で都市部では土地の価格が高いため、安く住宅を購入したいという要望は少なからずあります。国交省の調査では空き家のうち30%は最寄り駅から1km以内にあります。
売りたい人がいて、買いたい人がいるというのに上手くマッチングができていないのです。
3.空き家プロジェクト
以上のことを踏まえて私はいくつかの空き家の再利用と売買のお手伝いをしています。
売り主が所有する空き家に対して基本設計と見積をして新しい買主に完成イメージを提供し土地、改修工事含めて契約後、工事を行うというモデルを行っています。
普通の分譲住宅と同じ方法ですが売買価格が安くなるため動きが早く、契約後の工事になるので無駄な投資をせずに安心です。
私としては、古くて安くて悪いものでなく、元は古いけども、その良さを活かしながら新しい耐震や断熱の基準に則った快適な住宅をお届けしたいと思っています。
実際、柱、梁などを見せる住宅は若い世代にとって新鮮に見えるようです。
空き家改修モデルの例(大阪市旭区)
4.改修の方法
2004年より国交省から「木造住宅の耐震診断と補強方法」という指針が出されて手法としては確立しています。https://kenbokyo.jp/book/item.html?bid=56
具体的にはまず現状の構造的な診断を行い、それに基づいた構造計算によって効率的に柱や筋交いをいれ、基礎をコンクリートで補強します
断熱についても改修工事の際に、現在の新築と同等基準の断熱性能を施すことは可能です。https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/jutakukentiku_house_tk4_000103.html
関西以西の地域では断熱材が入っていない古い住宅も多々ありますので効果は確実です。
改修工事(リノベーション、リフォームとも言う)ですので、木材価格の高騰している昨今、コスト的に有利です。新築住宅と比べても安く工事できます。
5.なぜ普及しないか?
ここからが問題です。
総務省、国交省も肝いりで進めている空き家対策ですが、思うように進んでいないのが現状です。
それは住宅ローンが組みにくいからです。
金融機関はこのようにしてできた住宅(耐震補強や断熱したとしても)最初の建築年からの「築何年」という判断しかできず、建物としての担保を認めていません。
再建築不可物件の土地であれば土地も担保とはなりません。
現在銀行等で組める無担保のリフォームローンでは500万円から多くても1000万円くらいですので、それ以上は自己資金となってしまいます。
このような資金面の問題が流通しにくい理由になっていると思います。
私としては耐震補強、断熱改修を行っているのであれば価値上昇分を認めて欲しいと思いますが、現状はそうではありません。
ですので全体の資金計画(買主側の想定も含めた)も踏まえての改修計画が必要となるでしょう。
6.空き家にかかる諸問題
今後も空き家は増えてきます。
空き家にかかる問題は賃貸、売買を含め建築設計や工事だけの話だけでなく金融、相続、税金、土地、家主との関係、隣地との関係など様々なジャンルを横断しています。
様々な士業とあらかじめ協議相談することができれば、途中で立ち止まることなくスムースに取り組めると思います。
空き家は長く持てば費用がかかりますし、人の住んでいない家は予想以上に痛みが早いです。早めに対策をしておかれることをお勧めします。
7.最後に
ここまで読んでいただきありがとうございます。
最後に私の場合もご紹介します。
2000年に北九州の実家を弟と2人(私-神戸市在住、弟-加古川市在住)で相続しました。コロナであまり行けずにほぼ放っている状態です。雨漏りもしています。
借地の持家であるため、売ることもできず、土地の借代を払い続けています。
大学が近くにあるのでシェアハウス等も考えていますが改修工事費もかかりそうで、現在は検討中です。
私は一級建築士ですが、相続や土地の賃借、民法などについて当事者となるとやはり知識が不足しています。
当初は不安でしたが、神戸で土地家屋調査士、司法書士、弁護士の皆さん、北九州で大学教授、不動産屋さんにも相談にのっていただき、とても助かりました。
みなさんも困ったときには様々な専門家に相談してみてください。
インターネット上の情報に右往左往するよりも、専門家と直に話す方がとても心強く、安心して問題を進めていけることでしょう。
〜こうべ企業の窓口所属〜
有限会社 近藤英夫建築研究所
一級建築士 近藤英夫
〒654-0075 神戸市須磨区潮見台町4-4-13
TEL:078-855-6448
URL:www.KAcoltd.com
こうべ企業の窓口HP
ご訪問ありがとうございます。
「働く空間をデザインする」近藤英夫建築研究所の近藤です。
日本ペイント様本社サインのリニューアル工事が竣工しました。
2016年末のクリスマスをはさんだ連休3日間で工事を行いました。
2008年に弊社で設計させていただいたものを一部、メンテナンス改修することになりました。
また声をかけていただきありがたいことです。
日本ペイント様とは私が新日鉄(現新日鉄住金)にいるときからのおつきあいで
新日鉄在職中に商業施設のカラーコーディネートなどを一緒にやっていました。(平成元年あたり)
そのご縁で私が独立後も寝屋川研究所の意匠工房の設計やカラーデザイン室のカラーサーベィの
お手伝い等もをさせていただいていました。
今回もそういったご縁の繋がりです。
帯状のグループ会社名がそれぞれネジで取り外して交換できるように設計していますのでそれぞれ社名が変わっても一部を取り外して持って変えることができるように設計しています。(実際、親会社の社名も日本ペイント株式会社から日本ペイントホールディングに変わりました)
見た目は大きく変わらないのですがキレイを維持するための工事でした。
改修前:ニッペマークの色がすすけてきています。ステンレスにもシミが。高さ3.99m。
取り外した板は堺の工場でステンレス板を研磨した後、高槻でロゴの取替
リニューアルしてロゴも美しく、ステンレス板もキレイになりました。
ご訪問ありがとうございます。
「働く空間をデザインする」近藤英夫建築研究所の近藤です。
弊社で設計させていただいたダイコウリビング様の羽毛検査室が昨年末に竣工しました。
羽毛検査とは布団などに使われる羽毛の成分、混合率等を検査するものです。
JIS規格はあるものの義務付けではないため、100%輸入に頼っている日本ではほとんど行われていないそうです。(輸入元の成分表をそのまま信じるということ)いわゆる高級羽毛布団と言われているものは日本国内でも調べていると言われています。
どのような検査かというと
巨大な羽毛原料の入った羽毛から複数の検査用の試料を取り出し、
24時間恒温恒湿(20°c、65%)で保管した後、
清浄度、臭気、酸素係数、水分率、PH値等多種な検査を行うわけですが中でも大変なのが組成混合率検査です。検査用の羽毛試料(10cm角)の試験体から中の羽毛を一つずつ抜き取り、種類を選別し、質量を測定して、割合を調べるという根気のいる作業です。大きな息もできないし、集中力、忍耐力もいります。約1日かかるそうです。
JIS規格の詳細はこちら
http://kikakurui.com/l/L1903-2011-01.html
今回のクライアントのダイコウリビング様では長年、大手布団メーカーのOEM生産を多く手がけてこられて
実績はあるものの、ブランド力を今後伸ばしていきたいということで
布団の製作に際し、自主的な検査を行い、商品ブランドを高めることを狙いとしています。
検査室の写真の公開、WEBや商品に貼り付けるなどの展開、また小売店のバイヤーさんの見学等を考えておられ、
デザイン面と効率的な動線なども考慮する必要があり弊社で設計させていただくことになりました。
企業のコンプライアンスに対する姿勢が求められる中
社内外にむけてきちんとアピールしていく場をつくることはこれからの企業に求められるものになると思います。
多くの企業様に、こういう風に設計事務所をうまく使ってほしいと思います。
事務所の外観 工場の一部を改修。玄関サッシ、エントランススロープを新設
まず応接室 検査の概略の説明と検査室内部が覗けるようにしています。
検査室内部からエントランスを見る 検査の透明性を表現しています。
組成混合率検査中 ボックスの中に手を入れての検査です。集中です!
羽毛が散るので床は掃除のしやすいツルッとしたものに。奥の壁だけ意匠的に色を変えています。
左側の部屋は嵩高測定室。その奥に恒温恒湿室があります。
神戸市須磨区さくら道 ずっと段差のない歩道が続いています。
最近、通学中の児童に車が突っ込む事故が多くなっている。
高齢者の運転だったり、スマホゲームしながらの運転だったり。
もちろんそれらも問題なのだが、私は道路の構造が気になってしかたがない。
近年、多くの道がバリアフリー化工事ということでガードレールを撤去したり、歩道と車道間の段差を無くしている。見た目もよろしい。歩行者にも優しい。
しかし、逆もありえるのである。
車道を走る車が何らかのアクシデントがあった時、そのままのスピードで何の障害もなく、歩道に進入することができる構造なのである。
私のうちの近所の道路も数年前に歩道を拡張する工事を行った。
見ると歩道と車道の段差がなくなり、歩道を歩く人がどこでも車道を渡ることがしやすくなっている。
小学校の通学路でもある。そんな「バリアフリー化」道路が増えている。
そもそも「バリア」というのは体を守るために必要なものでもある。
なんでもかんでも「バリア」を無くせばいいというものではない。
高齢者や障害者のことを考えるのであればやみくもにではなく、適切な対応が必要だと思う。
今後、高齢者ドライバーも増える。一方でスマホ運転に警察が取り締まりを強化する話も聞かない。
車から子どもや高齢者を守る「バリア」も必要なのである。
なんでもかんでも「バリアフリー」ではなく、少し、考えてみる時期に来ていると思う。
近藤英夫(一級建築士、京都造形芸術大学 講師)
心斎橋大丸店は日本で数少ないアールデコ建築の一つです。
その表現は外観よりも内部のデザインに多く現れています。1920年代のアメリカなのです。
パリやローマでは高級ブランドは歴史あるビルに入ることが高級ブランドの証であるようです。
ホテルなども改装技術と工夫は素晴らしいものがあります。(旅先でむき出しのエレベータとか見たこと有る方も多いと思います。)
そして古いビルほど家賃も高い。
私は心斎橋大丸は単なるノスタルジックではなく資産として多いに活用することを願います。
例えばヨーロッパにあるような高級ホテル、高級店だけのデパート、あるいはコンベンションセンターなど
壊すのであればいっそのこと売って欲しい。買い手はいくらでもいるように思います。
改修して使用することで多くの内外の客の心を掴めたかもしれない。
爆買いの観光客(今は中国→インドネシア、インドと続く?)をあてにした増床の経営判断が
後々大変な損失を気づくことでしょう。
正直、梅田の集中化が始まった大阪で心斎橋の床を増やしてどうするんだろう、
もしかしたら隣のそごうが立てなおして破産したことを忘れているのか!(笑)
日本建築家協会は一部に保存運動に動き出そうとしていたが、協会内には新しい建物を設計する人もいるので
中立の立場をとるということ。なんか大事なときに使命を全うできず。
ヴォーリス事務所の青井さんを中心に図面の展示会や保存活動をしています。
私の出生地、北九州市でも25年ほど前に日本で一番最初の大型溶鉱炉を壊す話もありました。それは新日鉄の所有物でしたが多くの市民の働きかけで保存が決まり、昨年、世界遺産になりました。
こういった地域の資産、文化を残せない社会、建築の環境を(建築家の責任も多い)
是正できる建築家として考えていきたいと思います。
神戸市西区にある特定非営利活動法人「つばさ」の就労所に見学に行きました。
ここは障害者の人達が通って仕事をするところです。
大勢の利用者さんが楽しそうに仕事をしていました。
都市部の就労所は近年、利用者さんが通いやすいように「エキ近」になっています。
なのでマンションの1階などになってしまい、大きさや天井高さ等の制限をうけてしまいます。
なんとか良い工夫ができればと思います。
それはそうと、ここでは軽作業をはかなり安く受注できるそうです。
そして発注した企業にも補助金がでます。
(組み立てや編み物など)
企業の方にもぜひぜひオススメです!
近藤英夫
近藤英夫建築研究所 代表
www.KAcoltd.com
弥仙館のスタッフの方々や料理が素晴らしいのです。
川を取り入れたインテリアも評価いただいているようで嬉しいです。
http://search.travel.rakuten.co.jp/ds/yado/nara/nanbu-review
今回、1階店舗がコンビニから飲食店に変わるので用途変更をしました。
検査済証のない建築物はたくさんあります。
しかし検査済証がないと次の改修や増築ができません。
それから確認申請業務の民営化が始まり、戸建住宅などでも検査を受けるようになりました。
近年、テナント側のコンプライアンス遵守の動きが高まり、違法状態というのはイカンということになってきました。ビル側も用途変更ができる体制にしておかないと(建物が合法状態)良いテナントが入らないとという時代になってきました。
このような背景とストック活用の観点から平成26年7月に建築基準法適合状況調査という制度ができました。
今回、これを使って検査済証のない事務所ビルの用途変更を行いました。
http://www.kacoltd.com/works/houses/pg147.html
北九州市門司にある住宅です。100年以上前の住宅で既存の梁、柱を生かしつつ
基礎、屋根の補強を行いました。
ぜひ覗いてみてください。
⇒ 藍色 (04/12)
⇒ kondohideo (04/27)
⇒ kondo hideo (01/30)
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